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ツリー型タブにおける、タブのドラッグ時のアニメーション効果についてのポリシー - Sep 13, 2013

English version of this entry is available.

ツリー型タブに頂いたプルリクエストについて、ポリシー上の理由から取り込めないなあと思ったのだけれども、これまで、参照しやすい形でまとまった文章としてポリシーを表明していなかった気がするで、何故この変更を取り込まないか(タブをドラッグ&ドロップするときのアニメーション効果をOFFにできるようにしないのか)の判断理由を頑張って文章にしてみました。アーカイブとして、少し手直し&追記してこちらにも転記しておきます。

Firefox本体の挙動としてタブのドラッグ&ドロップ操作にアニメーション効果が適用されるようになって以後、ツリー型タブにも、その挙動に合わせるための変更を随時行ってきました。

しかしながら、この変更は万人にとって望ましい結果をもたらしたとは言えず、「タブをドラッグ&ドロップで操作しにくい」「タブのドラッグ&ドロップ操作時のアニメーション効果を無効にできるようにして欲しい」といった意見・要望が何度か寄せられています。今すぐにパッと挙げられるだけでも、Issue Tracker上には以下の2つのIssueがありました。

メールを通じて寄せられた意見も合わせると、無視できない数の人がこの件に関心を持っているようだ、という印象を僕は持っています。

冒頭に挙げたプルリクエストは、ドラッグ&ドロップ時のアニメーションを無効化する設定をツリー型タブに加える、という物でした。変更箇所は最小限で、内容もおかしなことをしている部分はなく、コードとしてはそのまま取り込んで全く違和感のないパッチです。

ですが、自分の認識としては、このパッチで示されている方向での対応というのは言わば、「FirefoxのGeckoエンジンはバグだらけだしWebkitと互換性が低いから、Geckoを全部消して、WebkitにFirefox風のUIを付けた物を次のバージョンのFirefoxにしますよ」というような物なのではないか、と考えています。……という例えは極端なのでもう少し普通の言葉で言い直すと、「確かに皆が望む通りに対処することは簡単なのだけれども、プロジェクトの運営ポリシー的に、この点で皆が望む通りの対処の仕方をする事には非常に慎重である」ということになります。

大前提として、このプロジェクト(ツリー型タブというアドオンの開発プロジェクト)は、Mozilla Firefoxという自分には制御のできない別のプロジェクトに依存している・振り回される事を避けられないプロジェクトである、という事をまず押さえておく必要があります。

ツリー型タブ以外も含めた自作のFirefoxアドオン全体で、Firefoxの仕様変更に追従するために大きな変更が必要だったことが過去に何度かあり、その時の苦い経験から、現在のところ、自分はこれらのアドオン開発のプロジェクトにおいて以下のような方針を立てるようにしています。

  • Firefox本体で実装している物と同じ目的の物は、できる限り、アドオン側で独自に実装し直さない。
    例えばTab Mix Plusはタブのセッション管理機能について、Firefox本体にそのような機能が入る前から開発されてきたという経緯から、Firefox本体のセッション管理機能とは全く別のセッション管理機能を持っています。が、今新たにTab Mix Plusを開発するとしたら、独自の仕組みを持つメリットは全くありません。 メンテナンスコストの削減と、「Firefox本体の機能と親和性が高くなるように開発されている」他のアドオンと併用したときの相互運用性を高く保つという、2つの観点から、独自の仕組みをメンテナンスし続けるよりは、Firefox本体で実装された仕組みにうまく載っかるように改修する道を選ぶべきであると、自分は考えています。
    • ただ、アドオン内の各部分が独自の仕組みに強く依存した設計になっており、Firefox本体で採用された新しい仕組みに基づく形に改修するのが非常に難しい(工数が大きい)場合には、独自の仕組みを保ち続ける選択を取る場合があります。
      例えば、TSTでは非同期な処理と非同期な処理の連携をうまく取るために、JSDeferredというライブラリを使用しています。一方で、最近のFirefoxではPromiseTaskといった仕組みが導入されており、本来であれば、JSDeferredではなくこれらに基づく形で全体を作りなおすべきところです。が、ESR版Firefoxではまだこれらが使えないという事情もあって、移行はできていません。
      (逆に言うと、そのような手のかかる変更に現在のところ自分は着手できていないが、問題視はしているということで、この点を解消するプルリクエストであれば、他のアドオンとの互換性などいくつかの懸念が払拭できていれば、是非とも取り込んでいきたいと思っていると言えます。)
    • Firefox本体で提供されているライブラリのAPIの安定性がいまいち信頼できないという場合、そのより低位の、より変更が少ないと予想されるAPIに基づいて、自分でライブラリを作成して使用しているという場合もあります。
      例えば、Firefoxではユーザ設定を保存する機能としてpreferenceという仕組みがありますが、真偽値・整数値・文字列値という型の違いがあったり、設定の変更を監視するのが面倒だったりということで、より簡単に使えるようにするためのライブラリをFirefox自身がいくつか提供しています。FUELもそのひとつです。しかしながら、それらの「シンタックスシュガー」的な用途で作られたライブラリは、ライブラリ自体のAPIが彼らの都合でコロコロ変えられてしまうリスクが結構あり、それで泣かされるのは非常にアホらしいという認識が自分にはあります。なので、僕は自作のアドオン群では、preferenceを扱う最も低いレイヤのAPIであるnsIPrefBranchを直に操作するライブラリ(modules/lib/prefs.js)を自分で作って使っています。
      PromiseやTaskへの移行に踏み切れていない理由の1つとしては、このような懸念もあります。が、FUELのようなライブラリがFirefox内部でほとんど使われていないために捨てられてしまうリスクがある(彼らは、自分が使う物は大事にメンテナンスしますが、「アドオン作者が使うように」といった感じでお仕着せの便利ライブラリとして用意した物については、彼ら自身が使っていないので冷遇しがちという印象が僕にはあります。)のに比べると、PromiseやTaskはFirefoxの中の深い部分で既に多用され始めているので、今更捨てられてしまうリスクはそれほどには高くないかな……という目算もあります。
  • Firefox本体で廃止が決まっている機能、廃止される見込みがある機能には、なるべく依存しない。
    例えば、記憶に新しいところではE4Xの廃止というトピックがありました。文字列のヒアドキュメント代わりにE4Xを使用している箇所が、E4Xの廃止で動かなくなるという事に対して、E4Xを諦めるか、E4Xを使い続けるのか、という2つの道があり得ました。プロジェクトによっては、E4Xを自前で実装し直すことでそれ以外の箇所の変更を最小限に留めるという道を選んだところもあったようですが、自分は、E4Xを捨てる道を選びました。このあたりの判断については過去に会社のブログで詳しく書いていますので、そちらも見てもらえると幸いです。
  • プロジェクトのコンセプトから外れる事は、なるべくしない。
    コンセプトは「自分が使いたいものを、1機能につき1アドオンとして、最小の形で開発する」ということ。
    過去のエントリで詳しく書いていますが、自分が使わない機能や、コンセプトから外れる機能を盛り込むことは、短期的にはユーザの満足度を高める結果に繋がる可能性がありますが、長期的には、プロジェクトの寿命を縮めるリスクを増やす事だと自分は考えています。GitHub上に置いてある僕のアドオンは、基本的にはどれも「自分が使いたいから・使い続けたいから」開発をしているので、自分が使い続けにくくなる可能性が高まる変更は、なるべく取り込みたくないと考えています。
  • 細かい挙動はFirefox本体の本来の挙動に可能な限り合わせる。違和感が無いように作り込む。
    例えばFirefox本体の機能として、F11キーでフルスクリーン表示に切り替えた時に、ツールバーが画面の外に隠れるというものがあります。ツリー型タブには「タブバーを自動的に隠す」機能がありますが、単機能だシンプル化だと言っておきながら一見するとツリーとは関係ないこのような機能を未だに含め続けているのには、このF11でのフルスクリーン表示時の挙動をFirefox本体の挙動に自然にマッチするようにしたいからというのが大きな動機としてあります。
    タブのドラッグ&ドロップ操作のアニメーションに、ツリー型タブでそれなりの労力を割いて対応している最大の理由も、これです。(Firefoxにタブのドラッグ&ドロップのアニメーションが実装されるまでは、UIが似ているAdobe Illustratorのオブジェクトとレイヤーの操作性を参考に作り込んでいました。これは今でも、タブ以外のオブジェクトをタブバー上にドラッグした時に見ることができます。)

以上を踏まえてこのプルリクエストで触れている問題を考えると、自分は以下の理由から、この変更を行わない方が良いという考えを持っています。

  • Firefox本体に、タブのドラッグ&ドロップ時のアニメーションをOFFにする機能が無い。
    • アニメーションするかしないかでFirefox内でのコードパスが大きく異なり、どちらもそれなりに大きな規模である。
    • が、アニメーションのための開発が活発に行われていたのに対して、アニメーション無しのドラッグ&ドロップについては冷遇されている(気が、自分はする)。
    • ということは、今後、アニメーション無しのドラッグ&ドロップは実装が削除される可能性もある(と、自分は見ている)。 削除される可能性がそれなりにある実装に強く依存してしまうのは、リスクが高い。
  • ON/OFFの設定がないという事は、Firefox的には、タブのドラッグ&ドロップは基本的にアニメーションするものであるというスタンスだと考えられる。であれば、Firefoxに依存するプロジェクトは、Firefoxの方針に従っておくのが得策であろう。
    • アニメーション効果を適用することは、見た目のキレイさだけでなく、使い勝手の向上にも関係するので、自分はそのようなスタンスを取ることには肯定的である。
    • アニメーション効果をユーザが無理矢理無効化すると、正しく動かなくなる、という部分がFirefoxの中にすらある。
      具体的には、タブを閉じる処理は内部でのデストラクタを走らせるトリガーとして「アニメーションが完了した」というイベントを使っており、アニメーションが無効化されているとデストラクタが走らないのでタブがきちんと閉じられないという問題があった(今その問題がどうなっているかは把握していない)。
      Firefox本体の側がアニメーションOFFでの利用をここまで冷遇している以上、そのような使い方をこのアドオンで手厚くサポートする必然性を、自分は感じない。
  • 「アニメーションがあるとタブをドラッグ&ドロップで操作しにくい」、という要望に真正面から「アニメーション効果をOFFにできるようにしました」と応えるよりも、そういう要望が出にくくなるような形での解決を図るべきだと考えている。
    • そもそもドラッグ&ドロップで操作する必然性が薄ければ、問題なくなるのではないか。手動でツリーを編集しなければ意図した通りにならない、という状況があるのなら、ユーザに手動でのツリー編集という手間を強いる方向よりは、ツリー編集しなくてもストレスを感じないように、ユーザの意図を汲んで自動的にいい感じにツリーを構築するようにした方が、より望ましいのではないか。
    • アニメーション有りの状態でドラッグ&ドロップすると狙った位置にドロップしにくい、という問題があるのであれば、それは、アニメーションをOFFにすることで対処するのではなく、アニメーション有りでも狙った位置にドロップできるようにするのが、正しい解決ではないのか。
  • 僕自身は、アニメーションをOFFにして使うつもりがない。自分が使わない機能に対するメンテナンスコストを抱え込みたくない。
  • 視覚的に連続した変化を認識しにくい、アニメーションされた方が却って認識しづらくなる、といった性質あるいは障害を持っている人がいる、という事を考慮すると、アニメーションをOFFにできるようにすることは、アクセシビリティ上意義のある事だと思う。
    が、Firefox本体がアニメーションをOFFにできるようになっていない以上、「タブをツリー表示できるようにする」というコンセプトのこのアドオンが、独自にアクセシビリティ上の配慮を盛り込むのはおかしいのではないか。
    • この点を真面目に考えるのであれば、「FirefoxのBugzillaで問題提起して、Firefox本体の側でアニメーション効果のON/OFFをできるようにする」あるいは、「Firefoxのアニメーション効果を無効にするという1つのコンセプトに則ったアドオンを開発する」という道を選ぶべきだと、自分は思う。(アドオンではないが、userChrome.js用のzzzz-removeTabMoveAnimation.uc.jsというスクリプトは、そのための物と言えそう。)

以上の事は、あくまで現時点での自分の考えがそうであるというだけで、絶対普遍の真理であるとは考えていません。ここに挙げた数々の懸念点を払拭できる材料があったり、あるいは、そのような懸念があってもなおこのようにするべきであるという強い動機があって、僕が同意できるのであれば、変更を取り込むことにはやぶさかでないです。

でも、そうでない限りは、この種の変更については「フォーク版を作ってそっちで自由に開発していって下さい。そして、その機能を必要とする人自身の手でメンテナンスしていって下さい。」というのがこのプロジェクトの方針ということになります。僕がこれらのアドオン群にオープンソースライセンスを適用しているのには、そのような自由を保障しておきたかったからという理由もあります。

冷たいようですが、どこで線を引くのか・何を基準に線を引くのかを熟慮した結果、このような線引きに落ち着いたということで、同様の不満を抱いている方々にはどうかご理解を頂ければ幸いです。

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