Jan 29, 2009

自費出版や同人活動でひょっとしたら一番大事かもしれない事

何年も前の詐欺まがいの共同出版ビジネスの話のエントリが参照されてたので見てみたら、Webで小説を公開してる人が自費出版か共同出版で自作を書籍化しようとしていて、そのコメント欄で「やめとけって!」と説得するための材料の一つとして紹介されていた。話の流れを見てみると「うーん……」という感じだったので、ついついそこのコメント欄に突撃してしまった。

以下、コメントに書いた事の焼き直し。

自費出版とか同人とかやる時に、「売る物」を作る以上は、やっぱり、「馬鹿売れしてウハウハ!」っていう状況は誰しも考えると思うんですよ。そこまでいかなくても、「完売するはず」とか「在庫は残っても、一応かかった費用くらいは回収できるはず」とか、そのくらいは考えるでしょう。「ン十万円をこれからドブに捨てるんだ!」と思って手を出すドMな人は、多分そうそういない。どんなに謙遜してても、まだ実際に手を出したことがなかったり、あるいはまだ痛い目を見てなければ、どこかフワフワと浮ついた気分があるんじゃないでしょうか。

僕も、過去に複数人でやってたサークルでCG集を作って、とらのあなの委託販売で「これこれこのくらいの数を納品して欲しい」と発注を受けた時、そういう風に考えてしまって舞い上がって、受けたんですよ。今まで作ったことのない数、頑張って手作業で作りました。これが全部捌けたら……!と、ワクワクしてました。

結果、惨敗でした。ちっとも売れないのね。納品した分がほとんどそっくりそのまま帰ってきました。他に売るルートも無しで、途方に暮れてしまって。今でもその段ボールは実家の僕の部屋にあったはず。少なくない時間と手間とお金をかけて、200000立方センチメートルほどの体積の、何の役にも立たない重たい箱を製造しただけだった。あの時の絶望感を、僕は忘れられない。

もえじら組の活動を始めるにあたっては、根本的な所で認識が変わっていたと思う。それは、「もし万が一全部売れたらどうしよう!」じゃなくて、「1冊も売れなくて全部が不良在庫になった時、どうやって対処・処分するか」という発想。「ポジティブな」「皮算用」じゃなくて、「ネガティブな」「計画」への転換。

「作り手としてのプライドをズタズタに引き裂かれて、半泣きになりながら、しかし売るアテもないから在庫を古紙回収に出す」というような、最悪のケースを想定すること……というよりも、その最悪の事態を出発点として、いかにそれを避けるか? そのような事態に陥らないようにするか? という事を考える。

そう考えるからこそ、「1冊も売れなくて、1円も回収できなくても、我慢のできる金額」に出費を抑えようとする。「1冊も売れなくて、全部を持ち帰っても、途方に暮れなくて済む数」に限って印刷しようとする。

今の自分にとって大事なのは、短期的にお金を稼ぐことでも、爆発的に読者を増やすことでもないんですよね。それよりは、なるべく長く楽しく緩くやっていきたい。継続したい。継続が、他のことよりずっと重要。

上記のような考えに基づくと、共同出版ビジネスみたいなのは僕には全然まったく魅力的に思えないのです。短期でドカッと一生物の買い物のような額の金をかけて、ドカッと一瞬の満足(本になった! 一般流通に乗った!)を得て、後には何もプラスの物が残らなくてマイナス(不良在庫や借金)しか残らない。この手の物は作者の側にとってはいわゆる「夢を買うようなもの」で、その時の一瞬の満足をずっと反芻し続けて生きていける人ならそのうち元を取れるかもしれないですけど、飽きっぽい僕は、元を取る前に満足感の方がきっと先に無くなってしまいます。

でも、逆に言うと、本人がそれでも構わないというのならボッタクリの共同出版でもなんでもやっちゃって別にいいと僕は思うんですよ。数十万から百万といった額のお金を、たった数個の糞重たい(本って重いんですよ!)段ボール箱に変える、契約次第ではそれすらも手元に残らない事もある、得られるのはただ「本を出した」という1つの事実だけ、その「本」の中身を読んでくれる人はどこにもいなかった、家族持ちなんだったら家族の信頼を失ってしまう、そういう事に対してその出費が妥当だと本当に思えるのなら、どうぞお好きにおやりなさいな、と。

関連リンク:

余談。リンク先で挙げられてる例で、100部くらいで150万とか「はぁ?!」な値段設定になってるのは、共同出版ビジネスでボッタクリだからというのも多分にあるんだけど、自費出版の同人誌にする場合でもそれなりにかかるようです。マンガ同人誌なら多くてもページ数は2桁止まりがほとんどなのに対して、小説だと3桁は当たり前、下手したら数十倍にもなる。で、ページ数が増えれば増えるほどイニシャルコスト(オフセット製版の費用)も紙代もどんどん上がる。小説は大変ですね……

追記。

今まで自分もだいぶ誤解してた(というかちゃんと把握してなかった)んだけど、メディア・文芸社・新風舎の盛衰と自費出版(2)「契約」締結の重要チェックポイント とかを見ると、僕の想像より事態はずっと酷い物のようだ。同人誌や普通の自費出版だったら、それなりに金はかかるけど、できた本は自分の物になる。権利が手元に残る。でもリンク先で述べられているような悪質事例では、権利を相手の会社に取られてしまう。金を出したのに、物も権利も取られてしまう。怖い話です。

いわゆる「印税」、本の売り上げの何パーセントかを渡しますよというだけでは、百万単位の金なんて回収できっこないですよ。まともな出版社のまともな企画本であるところのオライリーのFirefox 3 Hacks(技術書の出版部数は数千部程度が平均らしい、というところから大体の部数を想像してください)の印税ですら、まあ共著で印税が頭割りだからなんだけど、会社の給料には届いてません。それなのに、詐欺まがいの共同出版でボッタクられて多額の費用を出資したりなんかしてたら、これはもう、「売れないから回収できない」んじゃなくて、「売れても絶対に回収できない」ですよ。まったく酷い。

そこまで織り込み済みで、それでも「本を出した」という事実が欲しいんだ!という人に対しては、やっぱり「どうぞお好きに」と言う他ないんだけど。そこを勘違いさせられたまま、うまく乗せられて金をだまし取られるっていうことなんだったら、赤の他人でもやっぱり説得して止めさせたくなるというものです。詐欺師は嫌いですから。

エントリを編集します。

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