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そういえばちゃんとした書評を文章としてまとめていなかったことに気が付いたので、改めて書き留めておこうと思います。自分は対象読者層から外れていますが、「マンガで技術解説」という非常に近い領域で活動をしている以上、気になるのは事実なので、それならいっそちゃんと読んで学びを得ようと思い自費で購入しました。
本書はひとことで言えば、「今これからWebサイト制作を初めてみようと思っている、スタート前の人のための本」「格好いいサービスに憧れてWeb制作を始めてはみたけど、知れば知るほど次から次に新しいキーワードが出てきて、勉強しないといけない範囲がどんどん広がっていってしまい、途方に暮れている人」だと思います。
昨今のWebというと、アプリ寄りの見え方をするSingle Page Applicationと呼ばれるつくりが流行りで、やれAngularだのReactだのという話になりがちだと思うのですが、それらも全て基礎があっての話。SPAを作るにせよ、そこから移り変わった次のトレンドに乗るにせよ、絶対に外せないであろう知識というのはあります。本書は、主人公の「わかばちゃん」をはじめとするキャラクター達を立て、わかばちゃんを皆がサポートして導くという流れに乗せて、Webサイト制作の基礎中の基礎となるトピックを一通り解説する入門書ということになります。
本書の基本構成は「その節で解説する概念の大まかな絵解き説明、あるいは内容に絡んだネタの4コマ」と「それに続いてテキストや図での解説(本文)」という形で、マンガ部分の分量はそんなに多くはないです。「マンガで」という所に期待しすぎると、もしかしたら肩透かしを食らうかもしれません。マンガ部分だけを追った場合に得られる情報量は限られていますので、当たり前と言えば当たり前ですが、ちゃんとテキストも読むことが必要です。
自分は中学校でNEW CROWNで英語を初めて教わりましたが、いらすとや系の無色透明な・人格を意識させない絵ではない、漫画雑誌で見慣れた絵柄の・趣味嗜好などのバックグラウンドを持っていそうなキャラクター達(当時の物は「緋が走る」のあおきてつお氏がイラストを担当されており、この形式の先駆けだったそうです)がいることで、「堅苦しくてつまらない教科書、ではない。僕らの価値観、僕らの好みの事をちゃんと分かってくれている。頭ごなしに押し付けてきているのではない」と感じ、未知のものへの抵抗感がずいぶん薄れたような記憶があります。
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10月の誕生盆栽で誕生日をお祝いするわかばちゃん&HTMLちゃん by Piro/結城洋志 on pixiv
</noscript>本書に対して抱く率直な感想は、その感覚に非常に近いと思います。解説のためのマンガというより、読者の心理的抵抗を和らげる緩衝材としてのマンガ、という性質が主であるように感じました。そして、その狙いは見事に果たされていると思います。自分を未熟な初心者のわかばちゃんと重ねて読み進めることで、Web制作にまつわる膨大なトピックの中から「まず最初に押さえておかないといけないのは、ここ!」という部分をストレスなく学べるのではないでしょうか。
マンガは導入に過ぎないとはいえ、本編のテキストも決して堅苦しくはなく、文字だけではイメージしにくいであろう抽象的な概念の説明に図を多用していて、全体としては平易な解説になっていてます。「分かりやすい解説書にする」ための工夫が凝らされていますので、引っかかりを覚えることなくするっと通読できると思います。
初心者向けの技術解説は、どこまで説明してどこからをカットするか、例え話をする時はどこにフォーカスしてどこを無視するか、話を単純にするために嘘をつくのかつかないのか、という匙加減が難しいものです。あれもこれもと入れていくと、必然的に個々の解説に割ける文章の分量が減り、説明はおざなりになってしまいます。
本書は、自分の役割はあくまで導入と割り切っていて、難しい概念の話は別の専門書に任せるスタンスを取ることにより、解説として無理をせず、極力嘘をつかない、誠実な立場を取っていると感じました。本書を読んだ後であれば、「扱う話題はやたら幅広いが、内容は薄い」初心者向けの本をすっ飛ばして、中級者向けやあるいはそれ以上の難易度の本や解説サイトに挑戦していけると思います。
自分が本書の最大の特長だと思ったのは、HTMLやCSSといった「Webサイト制作に必要な道具」の使い方の説明に終始してはいないという点です。
分量のほとんどの部分がそういった技術の解説なのは事実ですが、本書はそれらの手前の導入部に「そもそも、その道具を使って何を作ろうとしているのか? 何のためにWebサイトを作ろうとしているのか?」という目標設定のフェーズを、後ろに「で、作ったはいいが本当に目的は達成されているのか?」というフィードバックのフェーズを設けています。これにより、本書全体に一本の筋が通っていて、「イラストが豊富で内容も平易だが、作者が何を言いたいというのは特に読み取れない、雑多な内容の本」ではない、「やりたい事の本質は人とのコミュニケーションであり、前提の立て方次第で最適な手段は変わる。手段としてWebを選ぶというのは、こういうこと。その手段はこういうもの」という考え方までもを伝える野心的な構成の本になっていると思いました。
だからこそのマンガ要素、なのかもしれません。そんな深いテーマを語る長いテキストは途中で飽きてしまうという人でも、わかばちゃんと同じペースで進み続ければゴールに辿り着ける、そういう本なのだと言えます。
Webは新しい技術が絶えず生まれ廃れる、荒波のような世界であり続けています。Webサイト・Webページ制作に関わる技術の全体像を把握しきることは困難ですし、その場を乗り切るのに必要な部分だけをつまみ食いしていても、それぞれが文脈上結びつかない個別の情報を増やすだけになりがちなのではないかと思います。
本書「わかばちゃんと学ぶWebサイト制作の基本」は、そんな中を自分に自信を持って生きていくための基準点となる、一朝一夕に廃れることのない確かな知識を伝える1冊だと思います。趣味で始める人に、仕事で関わり始めたという新人に、あるいは、自分で制作はしないまでもWebサイト制作の専門家と組んで何かをしようという人に、おすすめです。
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