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Tree Style Tab 4.0でのパフォーマンス改善に至るまでの17年の歴史を振り返る - Mar 08, 2024

先だって、Firefox用の縦型&ツリー表示タブバーアドオンであるTree Style Tab(以下、TST)のバージョン4.0をリリースしました。 このバージョンではサイドバーパネルの設計を大きく変更し、タブの数が多い場面での動作パフォーマンス(消費メモリー、CPU消費、体感速度)が大幅に向上しました。 参考値として、作者環境(Windows 11、Firefox 122.0.1、タブの数536個)で、Firefoxを起動しセッションを復元した直後、TSTも初期化完了した時点でのabout:memoryで計測したTST関連リソースの消費メモリー量は以下の通りとなっていました。

TST 3.9.22TST 4.0TST 3.9.22→TST 4.0の消費メモリー削減割合
メインプロセス10.87MB6.62MB39.1%減
拡張機能プロセス143.92MB83.35MB42.1%減

自分の主観的には、タブを開いた時やツリー開閉時などのもたつきも軽減され、体感的な快適さは大きく向上した印象があります。 タブの数が数千個に及ぶような状況や、Firefoxのプロセスが長期間生存する状況では、メモリー消費量の点でも体感的な速度の点でも、もっと顕著に効果が表れるのではないかと思います。

この改善のために、今バージョンでは前の版に比べて、CSSでのカスタマイズやヘルパーアドオンとの互換性が一部損なわれています。 既知のヘルパーアドオンについては問題無さそうなことを一通り確認済みですが、僕の把握していない物は動かなくなってるかもしれません。

なお、後述しますが、今回のTSTの改善はWaterfoxプロジェクトからの支援によって実現されました。 この場を借りて、プロジェクト主催のAlexさんに感謝の言葉を述べさせて頂きます。 改めて、ありがとうございます!

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Android上のFirefoxにアドオンをロードさせる手順 - Dec 27, 2023

Android版Firefox(開発コード名Fenix)用のアドオンを作る上で必要になる、実機での確認の仕方について。 一通りのことはDeveloping extensions for Firefox for Android | Firefox Extension Workshopに書かれていて、それをWindows 11上で実際に自分でやってみたという記録。

注意点。

  • 普段の開発でWSL1(Windowsのディスク領域へのアクセスがWSL2より高速なのでWSL2でなくWSL1を敢えて選んでる)上のUbuntuのコマンド操作を多用しているので、その流れでWSL1上のUbuntuに諸ツールを設定できればよかったんだけど、それは使えない。adbでUSB機器を認識させるフェーズで躓く。WSLでやりたければ、WSL2でないといけない模様。なので今回はWindowsネイティブでやることにした。

まず必要なソフトウェアをインストールする。

  1. Node.js 16以上。自分は現時点でのLTSの最新版であった20.10.0LTSを入れた。
    • システムのプロパティ→詳細設定→環境変数→システム環境変数→PathC:\Program Files\nodejs\を登録しておく。(Node.jsのインストーラが自動で設定してくれるかもしれない。ちゃんと確かめてない。)
  2. web-extのなるべく新しい版。自分はdogfooding用の改造版web-extソースからインストールしている
    • システムのプロパティ→詳細設定→環境変数→ユーザー環境変数→PathC:\Users\piro\AppData\Roaming\npmを登録しておく。(Node.jsのインストーラが自動で設定してくれるかもしれない。ちゃんと確かめてない。)
  3. Android Studioコマンドラインツールのみ。zipファイルを展開して取り出したcmdline-toolsフォルダーを、C:\Program Files\android\sdkに置く。
    • システムのプロパティ→詳細設定→環境変数→システム環境変数→PathC:\Program Files\android\sdk\cmdline-tools\binを登録しておく。
  4. adb(Android SDK Platform-Tools)。zipファイルを展開して取り出したplatform-toolsフォルダーを、C:\Program Files\android\sdkに置く。
    • システムのプロパティ→詳細設定→環境変数→システム環境変数→PathC:\Program Files\android\sdk\platform-toolsを登録しておく。
  5. JDK Development Kit。adbを動かすのに必要。自分は現時点での最新版らしいJDK Development Kit 21.0.1をインストールした。
    • システムのプロパティ→詳細設定→環境変数→システム環境変数→JAVA_HOMEC:\Program Files\Java\jdk-21(パスは実際にインストールしたJDKのバージョンに依存する)を登録しておく。
  6. 自分が使ってるAndroid端末用のADB USBドライバー。自分の場合はSHARP AQUOS sence 7で、SHARP共通のADB USBドライバーでよい模様。
  7. Firefox Nightly(Android版):アプリストアからインストールする。

必要な物が揃ったら、adbでの接続を試みる。

  1. Android端末をUSBケーブルでWindows PCに接続する。
    • Android上でUSBの接続用途を選択する画面が出るので、「ファイル転送/Android Auto」を選択する。Windows上で「MTP」として端末が認識されていればOK。
  2. Android端末のUSBデバッグを有効にする。
    • Androidの設定画面でAndoroidのバージョン情報の「ビルド番号」の所(AQUOS sence 7の場合は 設定→デバイス情報→ビルド番号)を何度かタップして「開発者向けオプション」を有効化し、その中の「USBデバッグ」(AQUOS sence 7の場合は 設定→システム→開発社向けオプション→デバッグ→USBデバッグ)を有効にする。
  3. Android上のFirefox Nightlyを起動し、USBデバッグを有効にする。
    • 設定→詳細設定→USB経由でリモートデバッグする を有効にする。
  4. コマンドプロンプト(cmd.exe)を開く。
  5. adb start-server を実行してadbのデーモンを起動する。
  6. adb devices を実行する。ここまでの手順が成功していれば、接続しているAndroid端末のデバイスIDが以下の要領で列挙される(数字は例示用のダミー)。

    List of devices attached
    856392147208461 device
  7. アドオンのディレクトリー(manifest.jsonがある場所)にcdして、web-ext run -t firefox-android --adb-device (先程調べたデバイスID) --firefox-apk org.mozilla.fenixを実行する。

アドオンの側に問題がなければ、これでアドオンがAndroid Firefoxに読み込まれる。

「なぜMozillaはXULアドオンを廃止したのか?」に寄せられていた反応を見て、「甘い……甘すぎる……」と思って、W3C信者時代からの価値観に行き着いた話 - Aug 27, 2020

1つ前の翻訳記事の末尾には当初、自分の個人的な考えを長々と書いていたのですが、翻訳記事でそういうことをやるのはマナー違反という指摘を頂きました。自分でも確かに、思い入れのあまり熱くなって書きすぎと感じていたので、別記事に分けるついでに増補改訂することにしました。)

原文に寄せられていたHacker Newsでの反応や、僕の翻訳に寄せられていた反応を見ていると、XULを捨てる判断を間違いと断じる物や、そのような判断をしたMozillaに対する恨み節、あるいは「バカな判断をしやがって、そんなだから俺らパワーユーザーから見捨てられたんだ」みたいな捨て台詞じみた物が結構見られました。

それらを見て僕は正直、「これだけ丁寧に書いてあってまだそんな風に思えるってどういうことなの……」と驚くやら呆れるやらしたのですが、自分自身もかつてはそっち側にいた自覚があったので、「なんでそう思うのか」も分からなくはありません。

甘い見通し

今でも「見境のない拡張機能の仕組み」を支持し続けている人というのは、アドオン開発者にしてもユーザーにしても、ある意味で楽天的というか、性善説を信じているというか、そういう感じなのかなあと思っています。

「従来路線でいっても生きていけただろう、少なくとも玄人向けとしてなら生き残れただろう」という意見については、以前の記事で「それでは結局現実に生き残れない」とバッサリ切りましたし、1つ前の記事のコメント欄にも書いてみました。しかし、それとは別に「諸々の進歩を継続しつつ、アドオン開発者やユーザーに自己責任での自由を残すのでは駄目なのか?」という主張もあります。自分もFirefox Quantum以前はそのような立場でした。

この場合の世界観は以下のように要約できるかと思います。

  • アドオン開発者:「自分はFirefoxの変更に振るい落とされることはない、いつまでだって追従し続けられる」と考えている。
  • ユーザー:「アドオン開発者はそのような努力をいつまでも続けてくれる」と考えている。

しかし、自分の体験と先の記事の内容を踏まえて、今僕が思うのは、「甘い……まったく甘すぎる……」ということです。

僕自身、日々壊れていくXULアドオン時代のTSTを維持するのには、ものすごい苦労を要していました。当時はそれが当たり前だと思って麻痺していただけで、実際には狂気の沙汰だったと感じています。TSTをWebExtensions化して以後の感覚では、XULアドオンを書くのなら、実作業時間で1時間あたりN万円くらいのお金を貰って仕事としてやらないと、とてもじゃないけどやってられないです。それくらいに、XULアドオンは維持にコストがかかると言わざるを得ません。「少額ながら寄附を……」とかいうレベルでは収まらない、もはやビジネスの話です。

僕自身はライフステージはそれほど変わらないままですが、結婚や子育てなどライフステージの変化の影響で、毎日アドオンのメンテナンスに時間を割くことはできなくなってしまう人も、当然いたでしょう。メンテナンスに膨大なコストを要するアドオンを継続し続けなくてはならないのでは、作者の人生をそれだけに縛り付けることにもなりかねません。

あるいは、作者個人が自分の使う範囲だけで細々メンテナンスし続ける程度なら可能かもしれませんが、それを「第三者が使いやすい」状態でリリースまでするモチベーションはどんどん下がっていく一方でしょう。

「見境のない拡張機能」は、もはや「ユーザー」はお断りの世界

なぜなら、ものすごく嫌な言い方をしてしまうと、今XULアドオンを一般向けにリリースしても、パッチも提供してくれない・問題の再現条件の特定もしてくれないクレクレ君達からの、「お願いですぅ~直してくださいぃ~ボクにはとてもメンテできましぇ~ん」みたいな声が増えるばっかりで、いいことがないからです。

それは言いすぎだろう、パワーユーザー向けならそんなことないのでは、と思う人もいるかもしれませんが、こういう修羅の世界では「敬意を払ってくれるユーザー」や「お金を出してくれるスポンサー」だけいても、結局は搾取構造にしかならない、と僕は考えています。。

一般的には「OSSにできるコントリビュートはプルリクエストだけではないです。障害報告も立派なコントリビュートです。必要な環境、再現手順、期待される結果、実際の結果を明記した良い障害報告をしましょう」ということを僕も言っていますが、「見境のない拡張機能」の世界では、それですら作者側の負担が大きすぎると言わざるを得ません。プルリクエストやコードを実際に提供し合うような、「同じ技術レベルで共に並び戦ってくれる戦友」同士で助け合う以外には成り立たない、そのレベルで戦列に加われない人に関わられて期待されても困る、というのが正直な所です。

技術的な事実をいうと、今でもFirefoxでは「見境のない拡張機能の仕組み」と同等のことをやる余地は残っています。AutoConfigの仕組みを使って、(Firefoxのインストール先)/defaults/pref/autoconfig.js

pref("general.config.obscure_value", 0);
pref("general.config.filename", "autoconfig.cfg");
pref("general.config.vendor", "autoconfig");
pref("general.config.sandbox_enabled", false);

という内容のファイルを置き、(Firefoxのインストール先)/autoconfig.cfgにゴリゴリ書いていけば、Firefoxのchrome領域上で任意の特権スクリプトを動かすことができます。実際、僕も仕事の上でどーーーーーーしても必要に迫られた場合はそうしていますし、Firefox内部で任意のスクリプトを特権付きで動作させるアドオンだった「userChrome.js」のエコシステムを継続している人達も、この方法を使っているようです。

こういう使い方をすると、前の記事で散々書かれているような「バージョンアップですぐ動かなくなる」「代替策がない」というドン詰まり状況が頻繁に発生します。ググって見つけたブログ記事やQiitaの記事のコピペで使うだけではとても維持できず、「自分で原因を調べて、自分でコードを直す」ということがどうしたって必要になってきます。誰かが直してくれるのをボケッと待ってるだけでは、今のFirefoxのリリースサイクルにはまず追従できないでしょう。

なお、この方法を使っている人達は百も承知だとは思いますが、この方法もいつまで使い続けられるかは分かりません。それでも、「Firefoxのソース自体に手を入れて、Firefoxそのものを独自ビルドする」のは依然として可能です。あるいは、そこまでやるならChromiumに乗り換える(Chromiumを改造して独自ビルドする)方がいいかもしれません。もはや完全に根性試しの世界ですが、腕力さえあれば乗り切れるのがOSSのいい所です。腹を括って「この方向でも生きていけるんだ」ということを示し続けていく人は、いてもいいとは思います。僕にはとても真似できませんが……

Thunderbirdの場合

FirefoxはFirefox 57で「見境のない拡張機能」をバッサリ切りましたが、Firefox ESRのスピード(1年ごとのメジャーアップデート)でゆっくり物事が推移しているThunderbirdは、もう少しソフトランディングな方向で進んでいます。会社のブログに書いたThunderbirdアドオンのTb78対応の話では「使うな」とサラッと流していますが、アドオン作者向けのThunderbird 78向け移行ガイドによると、Thunderbird 78では「公式のWebExtensions APIには含まれていないけれども、こういうAPIが欲しい」という機能があるときに、アドオン作者がそれを自力で実装する、Experimental APIという仕組みが利用できるようです(これはFirefoxでも提案はされていたのですが、なんやかやで結局実際には使える状態にならなかったと記憶しています)。

ただ、そのような本来の意図とは裏腹に、Experimental APIは結局「見境のない拡張機能」と同じことをするための互換レイヤー作りのために使われてしまっているようです。少なくとも、CardBookという巨大アドオンのThunderbird 78対応ブランチでは、ほとんどのソースはXULオーバーレイ前提になっていて、Experimental APIでXULオーバーレイ相当のことをしている様子が伺えました。

まあ、そうしたくなる気持ちは、分からなくもないんですよ。移行ガイドは(ちょろっとしか見てないですが)「こうやってちょっとずつ移行していきましょう」みたいなソフトな書き方をしてるし。一般的に、ハードランディングよりソフトランディングの方がいいとされてますし。前の記事にあった通り、Firefox自体もちょっとずつ段階的に改良されていったわけですし。

でもねえ、XULアドオンのWebExtensionsへの移行だけは、TSTのWebExtensions化で僕がやったように、「腹を括ってゼロから作り直す」以外の選択はないと思うんですよ。XULアドオンとWebExtensionsアドオンではパラダイムが違いすぎて、「ちょっとずつ置き換え」なんてできないんですよ。

「ちょっとずつ置き換えるためにとりあえずExperimental APIで全部持ち越した」の先にあるのは、「ちょっとずつ移行しようと思ってたけど、どうやって移行したらいいか見当もつかない」という混乱、そして何もできずに手をこまねいての停滞、最終的には時間切れ(Experimental APIの廃止)での完全死だけ。そうなる前に、いかに早く頭を切り替えて腹を括ってゼロから作り直そうと思い切れるか、それが生死を分けると僕は思ってます。

優先順位が違ったから僕は腹を括れたのかもしれない

XULアドオンのWebExtensions化では、「WebExtensionsらしいやり方でゼロから作り直して」「APIが足りない部分は、WebExtensionsらしい作法に則ったAPIを提案する」「要望が通らなかったら諦める、無理はしない」というのが最も「正しい」やり方です。自分は一応今のところはそういう方針でやっているつもりですが、改めて考えてみると、僕がこの方針を取れているのは、僕の本心が、多くの「見境のない拡張機能の仕組みに今でもこだわり続けている人達」とは別の所にあったからなのかもしれません。

元記事に寄せられたPale Moonのメンテナーの人のコメントでは、徹底的なカスタマイズを必要としている人のために頑張っているのだ、ということが語られています。それ以外の怨念の籠もったコメントや捨て台詞じみたコメントも、通底しているのは「自分のやりたいようにカスタマイズできることが一番大事、それ以外は二の次」という価値観のように僕には思えました。

対する僕は、「Mozillaの掲げるOpen Webの実現が一番大事、そのために必要な物としてGeckoというレンダリングエンジン実装が継続することが必要、自分のやりたいようにカスタマイズできることは二の次」と考えているようです。いま自分がインターネットを使いたいように使えるのはOpen Webがあってこそで、その邪魔になるなら自分の細かい要望は(なるべく実現できるに越したことはないけど、どうしても衝突するなら)脇に置いても構わない、というか、自分の要望を無理に押し通した結果Open Webが失われては元も子もない、という考え方なのだと思います。

これはべつに、Mozilla信者だからMozillaの言うことに何でも従ってる、というわけではありません。Mozillaに入れ込むようになるより以前、W3C信者として調子こいてた頃に僕が入れ込んでいた、アクセシビリティとかユニバーサルとかの話が先にあって、Mozillaの掲げるOpen Webはそれに連なる物だと捉えている、ということです。(そもそもで言えば、僕はWeb標準を素晴らしいと思っていて、そのWeb標準の技術に基づいたXULとCSSて実用的なデスクトップアプリケーションを作れる実例が示されていたから、ということでMozillaに入れ込むようになったのでした。)だから、もしMozillaが「Open Webなんかどうでもいい、Web技術の標準化とかどうでもいい」なんて言いだしたら、僕はその時の方が深く失望すると思います。

 

この日記の話題が、ここ数年ジェンダーとか差別とか多様性とかそういう話ばっかに偏ってた感じはありましたし、「シス管系女子」でみんとちゃんやその周辺の人物達の様子を描くときにもそれがずっと裏テーマとしてはあったんですが、それらも大きな括りでは近いところにあるんですよね。

そう考えると、僕がやってることはあれもこれもどっかで繋がってるんだなと。しがないラジオのとき自分のやってきたことを線で繋いだ図にしたけど、単にバラバラにそれらがあったわけじゃなく、1つの価値観の多様な表現形だったということなのかなと。

W3C信者活動をやめてすっかり軸足がよそに移ってしまったと思ってたけど、判断の根底にはまだまだW3C信者だった頃の何かが残ってたんだなあ、と改めて思い知らされて、感慨深い思いをしたここ数日だったのでした。

なぜMozillaはXULアドオンを廃止したのか?(翻訳) - Aug 22, 2020

原著:David Teller, 2020年8月20日CC BY-NC 4.0で公開されている内容の全訳。Qiitaにもクロスポストしています。

要約:Firefoxはかつて、XULとXPCOMに基づく偉大な拡張機能の仕組みを持っていました。この仕組みは長い間私達によく尽くしてくれました。しかし、Firefox開発者と拡張機能開発者の両方にとって、メンテナンスコストは増大し続けるばかりでした。ある面では、増大していくコストは、Firefoxをセキュアにしたり、高速化したり、新しい事を試したりするための努力を、少しずつ破壊していきました。また別の面では、増大していくコストはアドオン開発者のコミュニティを少しずつ破壊していきました。最終的に、古いアドオンの仕組みを守ろうとして数年を過ごした後、Mozillaは、この拡張機能の仕組みを廃止し、それより拡張性は劣るもののメンテナンスしやすいWebExtensions APIに置き換えるという、難しい決断をしました。この選択のおかげで、Firefox開発者は再び、セキュリティや安全性やスピードを改善するために必要な変更を行えるようになったのです。

ここ数日、私はFirefoxのユーザーと会話して、2020年8月のMozillaによるレイオフの結果に関する噂と事実を区別しようとしていました。その過程で何度か持ち出されたのが、Firefox Quantumへの移行におけるXULベースのアドオンの廃止のことでした。私は非常に驚きました。もう何年も前に起こったことについて、この選択に感情を害されたと感じている人が、コミュニティにまだいるということにです。

そして、誰かがredditで指摘していたとおり、私は、何故XULベースのアドオンの廃止以外に選択の余地が無かったかについて、私達が深いところを説明する機会をまだ持っていなかったということに気付きました。

そこで、アドオンとGeckoの内部事情の話に飛び込む準備ができている人向けに、これを機にもう少し詳しい話をしてみようと思います。

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Information disclosure vulnerability of Tree Style Tab and Multiple Tab Handler - May 29, 2019

日本語版

As already announced at changelogs, an information disclosure vulnerability was found in Tree Style Tab 2.0-3.0.13 and Multiple Tab Handler 2.0-3.0.6.

  • The vulnerability was already fixed at TST 3.0.14 and MTH 3.0.7.
  • Please be careful if you deactivated auto-update of addons, or using old TST or MTH on old Firefox. I strongly recommend you to update or uninstall them for safety.

Technically detailed description is already published at a GitHub issue. It was a spec bug around APIs for communication with other addons. In short: the API design was not matched to the security model of WebExtensions API itself.

  • A WebExtensions based Firefox addon can read privacy data of tabs, only when such a risk was notified on its installation and you intentionally granted that. Title, URL, and "FavIcon" of tabs are such sensitive data.
  • TST and MTH are addons providing list-like UI for tabs, so they must require permissions to access such sensitive tab data. You might saw such notification on your initial installation.
  • TST and MTH provide API for other addons to notify information of specified tree or multiselected tabs. The data notified via those API were constructed from tabs.Tab objects got via WebExtensions API with their own permissions, and they contained full tab data from both regular and private windows, including title, URL, and FavIcon, without any confirmation. To be honest, I forgot that those properties are not accessible without tabs which is a non-default permission.
  • Their API is callable via a general WebExtensions API browser.runtime.sendMessage(), and any addon can call browser.runtime.sendMessage() with no special permission.
  • As the result, sensitive tab data were accessible from any other addon with no permission and no warning when TST or MTH was installed.

Currently there is no report about actual such an "attacker" addon. This vulnerability was found by a self-check.

However, it existed for a long time (from initial releases of their versions 2.0 at 2017), and might be known axiomatically with public API documents - attackers might find it out when he read the API spec carefully. If you found any actual attacker example, please tell them me.

I already contacted to community managers of Mozilla, so I will update this announcement if any progress.


Why I did such a terrible mistake? I think there are mainly two reasons.

First, TST and MTH were originally developed as XUL addons.

In old days, all XUL addons had same permissions: they were allowed to access any data on Firefox. Old API of these addons were also designed on the policy same to XUL addons themselves - there was no concept like permissions for each client addon.

On the other hand, there are some known concepts of WebExtensions: isolated namespaces and secure permission model based on declarations. So users just need to be careful about safety for each addon simply. And, there is one more self-evident (but I missed that) fact: my addons TST and MTH may be allowed to read sensitive data, but other API client addon may not.

This means that it was required that updating the concept of my APIs following to the security model of WebExtensions API itself. But regrettably I forgot to do that - I concentrated to migration of their features and missed this point. As the result, TST and MTH were became like a bigmouth: they got sensitive information out of Firefox and blabbed to others carelessly.

Second, I misunderstood the power of the tabs permission.

The permission name tabs looks like required to do anything around tabs, for example getting a list of tabs. So, because APIs of TST and MTH require id of tabs as their parameter, I thought that "client" addons must have the tabs permission and there was no problem to return full tab information.

But that was misunderstanding. Actually, many WebExtensions API around tabs are callable regardless the addon has no tabs permission, and the permission just appends extra sensitive properties to tab objects. I added tabs to required permissions on very early days of my WebExtensions addon development experience and it was left there for a long time, thus I had no chance to correct such a misunderstanding. Possibly I might specify tabs permission for other addons even if it is unnecessary.

Please remind my mistake as a lesson, if you plan to design callable API for other addons. You need to be careful to treat any data got via WebExtensions API as sensitive, as:

  • You should understand the exact effect of the permission you specified at permissions in manifest.json. Don't put needless permissions, and keep it mind that you should make effort to minimize the list of permissions anytime.
  • You should build response/notification messages for other addons from scratch, especially without recycling of objects got via WebExtensions API with your own permissions.

ツリー型タブとマルチプルタブハンドラに脆弱性がありました - May 29, 2019

English Version

既にTwitter等でお知らせしていますが、ツリー型タブのバージョン2.0~3.0.13とマルチプルタブハンドラのバージョン2.0~3.0.6に脆弱性がありました。

  • 問題自体はツリー型タブ 3.0.14以降およびマルチプルタブハンドラ 3.0.7以降で修正済みです。
  • 自動更新を停止していたり、古いバージョンのFirefox用に古いTST・MTHを使用していたりすると、脆弱性を突かれる恐れがあります。更新またはアンインストールを強くお勧めします。

詳細な説明はGitHubのissueに日本語でも記載していますが、端的に言うと「他のアドオンと連携するために独自に提供していたAPIの仕様がガバガバだった」という事になります。

  • 通常、WebExtensionsベースのアドオンでは明示的に宣言されインストール時に許可された範囲の情報しか取得できない。タブの現在のタイトル、URL、アイコンもそのような情報の一種。
  • TSTやMTHは動作上どうしてもタブのタイトルやアイコンを知らなくてはいけないので、それらの権限を要求する旨宣言している。インストール時にもそのあたりの事が警告される。
  • TSTやMTHは、他のアドオンの求めに応じてツリーの情報や選択されたタブの情報を返したりプッシュ式に通知したりするためのAPIを提供している。このAPIを介して返される情報は、TSTやMTHが自身の権限に基づいてWebExtensions APIから得たtabs.Tabのオブジェクトに基づいて、それとの互換性を保つようにしていたため、その中に無条件でタブのタイトル、URL、アイコン、およびプライベートウィンドウのタブの情報が含まれていた。これらの情報が、本来は取得するために特別な権限が必要な物であるという事を失念していた
  • このAPIはbrowser.runtime.sendMessage()というWebExtensions APIを使って呼び出す物だが、browser.runtime.sendMessage()の呼び出しには特別な権限は要らない
  • よって、TSTやMTHがインストールされている環境では、どんな権限でインストールされたアドオンからでも、全く無警告に、そういった情報を参照できてしまうという状態だった。

一応、この「脆弱性」を使って悪さをするアドオンとしてこういう物が実際にある、というような報告はまだ受けていません。あくまで、作者が自主的に行った仕様の再チェックで脆弱性が見つかったという事になります。

が、「誰も気付かないような所、仕様の穴を突いたイリーガルな使い方をすると情報を盗み出せる」というような物ではなく、技術情報としてドキュメントも公開しているAPIを堂々と使って、WebExtensionsのアドオンごとの制限を突破して情報を取得できる、しかもその情報自体は実は2017年のバージョン2.0リリースの時から1年半以上もの間ずっと公知だったという、我ながら書いていて情けなくなるお粗末な状況なので、この脆弱性を利用した悪意あるアドオンが既に存在していても、全くおかしくはないと思っています。

ということで、もしそのようなアドオンを見つけた方がいらっしゃいましたら、お手数ですがどうかタレコミをお願いします。

折良く(?)、Mozillaのアドオンコミュニティの担当者の方からおすすめアドオンの件について連絡を頂いたので、ついでにこの件についても相談してみました。何か進展があったらまた告知すると思います。


それにしても、何故こんなにお粗末な事をやらかしてしまったのか。理由はいくつか考えられます。

まず1つは、XULアドオン時代の設計思想を引きずってしまっていたこと。

元々、XULアドオン時代にはFirefoxのアドオンはすべての情報にフルアクセスというのが当たり前でした。なので、TSTやMTHのAPIには、呼び出し元ごとに返す情報に差を付けないといけないという考えが全くありませんでした。聞かれた事はなんでも返していい、何故ならどうせ呼び出し元のアドオンだって、それらにアクセスしようと思えばいくらでもできるんだから。これがXULアドオン時代の考え方でした。

他方、WebExtensionsでは、各アドオンは事前に許可された範囲の情報しかアクセスできないので、ユーザーは各アドオンの権限だけを気にすれば良いという事になっています。この事ばかりが強く印象に残っていたことと、とにかくXUL版から機能を移植するという事にばかり気を取られていたために、アドオン同士の間ですらもアクセスできる情報の範囲に差があるという事が、頭の中からすっかり抜け落ちていたのだと思います。

「アドオン同士の権限に差がある」というWebExtensionsの世界に合わせるには、TSTやMTHのAPIにもその考え方を反映しないといけなかったんですね。自分のアドオンが正当な手順でWebExtensions APIから入手した情報は、相手のアドオンにとっても同様に正当な手順で入手できる情報だ、とは限らないのです。それを忘れて呼び出し元の求めに応じてなんでも返してしまっていたというのは、「内緒にするから教えて」と言って教えてもらった情報を、他人にホイホイ言いふらすようなものです。実に嘆かわしいです。

2つ目の理由は、permissionsで宣言する権限の影響範囲を正しく把握しきっていなかったこと。

tabsという権限の名前からはいかにも、タブに関する事なら何をするのにも、例えばタブの一覧を取得するのにすらも必須であるような印象を受けます。TSTやMTHのAPIを呼ぶには呼び出し側のアドオンがタブのIDを知っている必要があり、タブのIDを知っているなら当然tabsの権限も持っているはず、ならタブのプロパティ全部渡しても問題無いはず(どうせ呼び出し側のアドオンが自分でも同じ情報を取得できるんだから)。というのが、これらのAPIを作った時点での自分の認識だったのだと思います。

しかし実際には、tabs.query()などのWebExtensions APIはtabsの権限無しでも呼ぶ事ができます。tabs/activeTabの権限の有無は、タブの一覧を取得できるかどうかではなく、返されるタブの情報にタイトルやURLなどのセンシティブな情報が含まれるかどうかという点にだけ影響します。TSTやMTHをWebExtensionsで実装するにあたって、まだWebExtensionsの仕様への理解が浅かったかなり初期の時点でtabsの権限を設定したきりだったために、この勘違いがずっと正されないまま今に至ってしまっていたのでしょう。他のアドオンを作る時にも、自分はひょっとしたらtabsの権限が不要なのに要求してしまっているという例があるかもしれません。

今回のことから得られた教訓は、以下のようにまとめることができると思います。

  • それぞれの権限が何を可能にするのか、その権限が無いと何ができなくなるのかを、ちゃんと理解しておく。不要な権限は要求しないようにして、常に必要最小限の権限だけをpermissionsには列挙する
  • WebExtensions APIから自分の権限で取得したオブジェクトをそのまま使い回して、他のアドオン向けのメッセージに含めてはいけない。必ず、センシティブでない事が分かっている情報だけをホワイトリスト形式で抽出して、スクラッチでメッセージを組み立てること。

僕のように「他のアドオン向けのAPI」を提供するアドオンを作ろうと思っている方は、どうか僕と同じ過ちを犯さないように、他山の石として下さい……

ツリー型タブ以外のタブ縦置き・ツリー表示アドオン - May 05, 2019

(2019年7月10日追記:fttを追加)

現時点で把握してる、Tree Style Tab(ツリー型タブ)以外の物をまとめた。ボタンでポップアップが表示されるタイプの物を除外した、サイドバー常時表示型の物だけです。

ツリー表示できる物

  • Tree Tabs
  • Sidebery(手動操作で設定を有効化する必要あり)
  • ftt:TSTの欠点である不安定さを原理的に排除する方針で設計されているとのこと。

グループ化できる物

縦置きだけ

じっくり使い込んだわけではないけど、これらの中ではSideberyがぱっと見の出来がいいように見えた。

(2019年7月10日追記)また、新顔のfttも興味深い。TSTと同様に他のアドオンとの互換性を維持することを目標に置きつつ、WebExtensionsのタブ関係のAPIをもう一層ラップするライブラリを用いて、安定性を損ねる原因となっている複雑な非同期処理を排除しているらしい。多機能ではないシンプル路線での有望株だと思う。

TSTをWebExtensionsに移行したときは、その時点でも既に結構な数の縦型タブバーアドオンがあったので、「縦型タブバーとしては後発だ」と認識してたんだけど、その後もまだまだ新しい物が作られてるというのは興味深いです。というのも、これらのアドオンが依存するサイドバーAPIはGoogle Chromeには存在せずFirefoxやOperaなどでしか使えないため、ブラウザのシェア的にはそこで頑張っても社会的にはあまり報われませんので。以前、アドオンの勉強会でFirefoxのWebExtensionsに固有のAPIを紹介した時に「Chromeで使えないなら使わない」という反応をもらった事を考えると、まだまだ自分の他にもへそ曲がりがいるものなんだなあ、とちょっと嬉しくなってしまいます。

 

それにしても、これらの中で最もユーザー数が多いTab Center Reduxでも1万2千人で、TSTの約13万人とは10倍の開きがあって、なんでこんなにTSTのユーザー数が多いのか?と我ながら不思議に思ってしまう。単純に歴史が古いから(XUL時代を含めると12年)だけでしょうか。先行者利益というか残存者利益というか。

古くからあるから出来が良いのかっていうと別にそんな事ないんですけどね。実際、1000とかメチャクチャ大量のタブがある状態で試してみると、ここに挙げたアドオンはどれもTSTに比べると圧倒的に起動が速かったし。というかTSTが桁外れにクソ遅かった(これは僕が動作速度や処理効率に比較的無頓着なせいだと思ってる)。TST 3.0でだいぶ高速化はしたつもりだけど。

(と、情報提供のフリして数字を出してせこい自慢をするだけのエントリなのでした)

ツリー型タブ バージョン3.0への道 - Mar 30, 2019

これはただの苦労話です。

2月末から3月末までをかけて、長らく懸案事項となっていたツリー型タブ(Tree Style Tab、TST)の大規模改修をやりました。具体的な変更の量としては、改修に取りかかる前の2.7.22からの差分 git diff 2.7.22 で約1MBありました。見た目は変えなかったのであまり代わり映えしませんし、挙動を決定づけるロジックもほぼそのままなのですが、それらが乗っかる基盤にあたる部分が入れ替わった感じです。

何を改修したのか、どういう成果があったのか、という事を説明するために、TSTのこれまでの歴史を振り返ってみます。WebExtensionsに移行した時の話ではあまり触れなかった、細かい実装の話が多めですが、誰の役に立つかは分かりません。

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Chrome Extensions Manifest V3とFirefoxアドオンの死(の可能性) - Feb 04, 2019

1523784 - Set up analytics for https://extensionworkshop.com というbug(※bugzilla.mozilla.orgではシステム上でトラックされているタスクを一般的に「bug」と呼ぶ)でどうやら何かアドオン(拡張機能)作ってみましょう的なイベント?の準備が進められているらしいという事を、人から教えて頂いた。キャンペーンサイトの準備中バージョンらしき物を見てみると、絵が豊富で見た目とっつきやすそうな感じに仕上がってる印象で「ほほう」って思ったんだけど、アドオンの構造を図解してる部分でbackground script等の話が出てきてるのを見て、ちょっとキナ臭いというか不安というかそういう思いが頭をよぎった。

というのも、FirefoxのWebExtensionsというのはGoogle Chromeの拡張機能の現行の仕様(Manifest V2)をベースに作られてるわけだけど、他ならぬGoogleがManifest V3でbackground scriptの廃止などのかなり大きな変更をしようとしている状況で、この内容で大々的にリリース打って大丈夫なのか? と。

だって、このキャンペーンサイト(多分)の内容を素直に受け取ると「WebExtensionsのAPIを使ってアドオンを作ろう。他のブラウザにも移植しやすいよ。」というような話になってると思うんだけど、いやちょっと待ってくださいよ。Firefox向けにWebExtensionsでアドオン作っても、Google ChromeがManifest V3に移行しちゃったら、それ動かないじゃんすか。っていうかChromeがManifest V3に移行するってことは当たり前だけどChromiumもManifest V3になるってことで、ということは、Chromiumベースのブラウザも(各ベンダがどう思ってるかに関係なく、強制的に)全部Manifest V3に移行するってことじゃんすか。次期EdgeもOperaもVivaldiもKinzaもみんなManifest V3に行っちゃって、そしたらChromiumベースでないFirefoxだけ置いてけぼりじゃんすか。

つまり、ChromeのManifest V3移行は、ちょっと前に騒がれてた「Chromeの拡張機能の大量死」という影響だけでなく、Firefoxにとっては「大多数の開発者にとっての、(Manifest V2互換の)WebExtensionsでFirefox用アドオンを作る意義の消失」という影響を及ぼすのではあるまいか? という事に、遅まきながら気付いたわけです。

昨年のTokyo WebExtensions Meetupに参加されていた方が実装上困っておられた事について「Firefoxでは(Chromiumに無い独自拡張の)APIがあるから、Firefox向けにだけちょっと便利にするみたいなことはできるよ」的な話をしたら、「いやあ……Chromeで使えないんじゃ、その機能は使えないですね……」と敬遠された時に、改めて思い知ったのですよね。ああ、WebアプリやWebページを作る人達だけじゃなくて、ブラウザを拡張するという拡張機能を作る人達にとっても、いまや「ふつうはChrome」であって「Firefox対応はオマケに過ぎない」んだな、って事を……

FirefoxのWebExtensionsはいまのところManifest V3に追従する予定はないみたいな話をどっかで又聞きした気がしてますが、いやいやそんな悠長なこと言うとれんやないですか。ツリー型タブを実装できなくなるからManifest V3に完全移行はしないで欲しいけど、Firefox一人だけ置いてけぼりを食らわないためには、オプションとしてでもManifest V3に対応は絶対しなきゃいけないじゃないですか。

ほんとどうなるんだこれ。

 

難しい事は脇に置いて、「アドオンを作る人」「ベンダが提供しているUIに気に入らないところがあってイラッてなったときに自分で手を動かして解決したい人」という立場から「こうだったらいいのに」という事を書き留めておきますと、

  • ブラウザ本体が提供するUIが気に食わない時に努力次第でゴッソリ置き換えられる余地は欲しい。(Tree Style TabやVimiumのような)
    • こういう物を実現するにあたっては、筋の良い設計にしようとするとどうしたって「永続的なバックグラウンドプロセスが全体を統括する」という設計になるので、それができる余地は欲しい。
    • 常時見える状態で画面上の領域を占有できる余地は欲しい。現状で言えばSidebar APIはその代表例。
    • この点で、「サイドバーみたいなものは不要」「拡張機能は原則として一時的に呼び出されすぐ終了する物であるべき」「UIの領域においそれと踏み込ませたくない」みたいな設計者達の思想が強く表れているGoogle Chrome、そしてそのChromeの設計に強く引きずられたあまり永続的なバックグラウンドプロセスまで廃止してしまう(と自分には読めた)Manifest V3は、自分が欲している物とはかけ離れている
  • サイトごとの権限と機能の権限は、確かに別々に記述できるべきだと思う。Manifest V2/現行WebExtensionsのpermissionsの書き方はあまりにダサイ
  • フィルタリングを宣言的に簡単に設定できることは、単純に良い事に思える。
  • 現行のwebRequestのような「クライアントサイドでリクエストやレスポンスの書き換えを任意に行える機能」は、新しい事をやる余地を残すために必要だと思う。
    • ただし、現状のようにシレッと他の権限と一緒に一言だけの注意書きで確認を求められる程度ではなく、「黄色と黒の縞々」みたいな禍々しい外観で激しく警告するような事は必要だと思うし、もっと細かく権限の段階を分けた方が良いと思う。
    • このページは拡張機能の何々によって内容が改変されています、みたいな警告をロケーションバーあたりに表示しておくというのもありかもしれない。
  • 総じて、自己責任で愚行権を行使できる余地は認められていて欲しい。警告も何も読まず、危険な物をホイホイインストールして、重くなったとか不安定になったとか言う、自分がやっている事の意味を自分で分からない・分かろうとしないような人のことまで手厚くケアする必要は無いんじゃないの? そういうのが欲しい人はApple製品を使うのが筋だと思う。技術屋が高級ブランド家電屋になろうというのが無理がある。

という風な事を自分は思っています。

「ツリー型タブ」が、Firefoxのアドオン管理画面にオススメとして表示されるようになりました - Jun 04, 2018

標題の通り、ツリー型タブが、Firefoxのアドオン管理画面にオススメとして表示されるようになりました(メールインタビューでやり取りしたScottさんが教えてくれた)。一定期間で入れ替わるやつなのでそのうちまたどっか行くと思うけど、記念に記録を残しておきます。 (証拠画像:英語版) (証拠画像:日本語版)

最初に書いておくと、このエントリはただの自慢です。こういう所に注目してくれる人はどこにもいないので、自分で解説して「僕TUEEEEEE」とアピるという物です。


統計データ上ではFirefoxの全ユーザーの中でアドオンを使っている人は意外と多くなくて、せっかくアドオンがいろいろあるのだから認知を向上させたい、というのがMozilla的には一つの課題のようです。2016年のAllHandsで既に、「アドオンをインストールするまでのハードルを下げたり、アドオンのインストールというよりも機能のON/OFFのように見えるようにしたりするといいのでは?」という方向でリニューアルを進めているということが通達されていて、現在のMozilla Add-onsやアドオン管理画面はその時見たモックほぼそのままのデザインが踏襲されています。

その時見た「機能のON/OFF」の選択肢の中に自分が作ったアドオン、特に「ツリー型タブ」が登場しているというのが、何とも感慨深いです。

というのも、WebExtensions版を作った時の苦労話の冒頭に名前が出てくるTBEより若干マシになってはいたものの、ツリー型タブもアドオンとしての「お行儀の悪さ」はなかなかのものでした。Firefox本体の関数をガンガン置き換えるわ、eval()で関数の行単位でモンキーパッチを当てまくるわ……なのでMozilla Add-onsのレビューポリシー的に「一般向けのアドオン」としては認められず、サイト上の検索結果等には表れない「開発者向けアドオン」の地位に長く留まっていました。TBEやツリー型タブのせいで(互換性を壊すとクレームがMozillaの方に来るから)Firefox本体の大規模な改修が阻害されていた、という部分ももしかしたらあったかもしれず、恨まれたり疎まれたりしていてもおかしくないくらいです。

そういう背景を持つツリー型タブが今、Mozilla Add-onsのバリデーションでエラーも警告も一切無く、Firefoxを使っている人がアドオン管理画面を開いたら目に入る位置に、広告ブロック等の桁違いのメジャーな選択肢に紛れて表れている現状を見ると、「ずいぶん立派になったもんだ……」と思うわけです。


ところで、苦労話に書いた通り、ツリー型タブのWebExtensions版は同様のWebExtensionsベースの縦長タブバー型アドオンとしては最後発と言っていいくらいに遅れて登場しました。いま自分が把握してるだけでも、サイドバー内に縦型のタブバー風UIを表示するアドオンは他にもこれだけあります。

それらを差し置いて何故ツリー型タブがおすすめになっているのでしょうか。選考過程は関知していないのであくまで憶測ですが、「これらの中ではツリー型タブが一番クソ真面目にFirefoxのタブバーを真似てるから」ではないだろうか、と自分は考えています。

実際に自分自身で上記の縦型タブバーアドオンをいくつかを試してみると、「みんな意外と適当だな……?」という印象を受けました。例えば以下のような具合です。

  • 見た目・配色がまずFirefoxのタブと大きくかけ離れている。
  • リンクをサイドバー内にドラッグ&ドロップしても、タブとして開かれない。
  • リンクをサイドバー内にドロップすると、ドロップ位置ではなく常にタブバー末尾に開かれる。
  • コンテキストメニューが無い。
  • コンテキストメニューがあるが、項目の並び順がFirefoxのタブバーの物と違う。
  • 音声をミュートしたタブの表現の仕方が独特。
  • Firefoxのタブバー上のタブの並びとサイドバー内での並びが一致しない。

ツリー型タブはどうかというと、基本的に見た目も挙動も全部Firefoxのタブに合わせるようにしています。技術的に不可能な事以外は、Firefoxのタブバーでできることは全部ツリー型タブでも同じようにできるようにする、という方針です。何故かというと、平たく言えば「そうじゃないと自分が使えないから・使う気にならないから」です。だってイヤじゃないですか、たかが個人開発のアドオンごときのために今まで覚えた物全部捨てて一から順応しなきゃいけないなんて。

もう少し格好を付けて言うと、度々述べていますが、UIの実装時には既存の何かに合わせるのが鉄則で、必要のない中途半端な自己主張はユーザーにとっては邪魔でしかない、と僕は考えています。コンテキストメニュー項目の並び順にせよミュート状態の表示の仕方にせよ、「Firefoxのタブと違う」という事それ自体が学習コストを引き上げ、使い勝手を悪くします。メニュー項目の並び順などはその典型で、人は普段よく使うメニュー項目を「だいたいここら辺」というような視覚的な位置で記憶しているようで、並び順が違うとそれだけでもう目当ての項目を見つけられなくなります。まったく違うならそれはそれで覚え直せばいいのですが、中途半端に似ていると、両方の記憶が混ざって余計に悲惨な事になります。似せるなら半端に似せないで完コピする、「俺の考えた最強のUI」を披露したいというエゴは捨てる、というのが、既存の何かに対する「改良版」と言える物を作る時に必要な心がけだ、と僕は思っています。

こういう所って、頑張れば頑張るほど違和感が無くなって既存の物に溶け込んでいってマジで誰にも気付いてもらえなくて報われなくて、それだけならまだしも、こういう事を頑張る事の価値自体が認識されなくなって誰もこういう所を頑張ろうとしなくなるんじゃないかということを心配してるので、ダサいとは思いつつ折に触れてアピっておく次第です。


また話は変わりますが、Google Chrome向けにもツリー型タブの代替になりそうな拡張機能はいくつかあるものの、どちらも自分にとっては「コレジャナイ」感が強くて、Chromeへの移行を考える材料にはなりませんでした。

どのあたりが「コレジャナイ」なのかは上手く言語化できないのですが、上記のような点が理由なんじゃないかなあとなんとなく思っています。Chrome全然使ってないから憶測ですが。

今見てみたところ、これを書いている現時点でのTabs Outlinerのユーザー数は13~14万人くらい、ツリー型タブのユーザー数は12万人くらいらしいです。Firefoxより圧倒的にユーザー数が多いはずのChrome用拡張機能ですから、ユーザー数に何倍も差があってもおかしくなさそうですが、実際にはこのように案外健闘しているようだというのが興味深いです。元々こういうタイプのUIに順応できる人やこういうUIを求めている人の絶対数がそのくらいという事なんでしょうか? とりあえず今のところは、「Chromeユーザーの中でこれらの拡張機能を使ってる人の割合より、Firefoxユーザーの中でツリー型タブを使ってる人の割合の方が多いという事は、ツリー型タブの方がユーザーに選ばれているという事に違いない!」と勝手に自慢しておこうと思います。


という、最初から最後まで自慢でしかないエントリなのでした。

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