Jun 28, 2006

Mozillaコミュニティが初心者に厳しい理由を考えてみた

(追記を整理してリライトした)

Mozilla/Firefoxのコミュニティは初心者に厳しいらしい。初心者の人、自称初心者の人、中級者の人あたりが、「だからMozillaはダメなんだ」といった感じの批判をしているのを目にすることがある。「過去ログ読め」や「FAQ見れ」だけで済まされるとか、ぶっきらぼうであるとか、丁寧さに欠けるとか、対応がお粗末だとか――とどのつまりは「自己責任」「自助努力」というのが徹底されてるということなんだけど、そういうのは確かに「お客様」気分の人には実に厳しい物だろう。では、なぜMozilla/Firefoxのコミュニティはそのような傾向があるのか、そうなるのか、その理由を考えてみた。

それって、Mozilla/Firefoxで商売してる・それで食ってるという人が極めて少ないせいなんじゃなかろうか。多くのMozilla支持者にとって、Mozillaは極論すればただの趣味・道楽で、ユーザが増えようが減ろうが彼らの現実の生活には何ら支障が無いからじゃなかろうか。言い換えれば、現在Mozilla/Firefoxを「支えている」人の多くには、Mozillaの世間での評判を良くしなくてはならないという切羽詰まった動機が無いのではなかろうか。

極端な事を言えば、真剣にMozilla/Firefoxのことを考えられるのは、それで食っていかなきゃならないという立場の人だけなんじゃないだろうか(Mozilla/Firefoxに献身的に尽くすことがアイデンティティになってるという人はさておく)。

そんな風に僕には思える。

自分達を守るためのバリアとしての刺々しい空気

これはべつにMozillaコミュニティに特有の現象じゃなくて。趣味・道楽でやってる人ばかりが集まってる所に、初心者お断りな一見するとピリピリした空気の所は珍しくないんじゃないかなあ。例えば2chの多くのスレがそうであるように。でもそのピリピリした空気というのは「一見さん」が特に感じるもので、そこの空気にどっぷり浸っている人にはむしろそれこそが慣れ合いのぬるま湯的な居心地の良い空気に感じられる、ということのような気がする。

初心者に優しい空気を作るというのは、実に辛い作業だと思う。ともすれば、ムカつく心を殺して、顧客にこびへつらい、ご機嫌を伺い、辛抱強く取り組まなくてはならない。ある意味で、奴隷にならなくてはならない、そんなケースもある。そんな仕事に無給で気軽に従事できる人なんてどれだけいるのだろうか。なぜ趣味・道楽ごときでそこまで自分を痛めつけなくてはならないのか。

人間、良心だけで動ける人はそうそういない。大抵の人はわが身が大事。自分の生活を捨ててまで他人のために尽くすような人は、少ない。だからこそ技術系のコミュニティは、一見さんにとって「ギスギスしている」と思えるような空気を敢えて作り出すことによって、自分達の生活と心身の健康を守ろうとするのではないだろうか。

そのような空気を取り払うことを要求するというのは、突き詰めれば、相手に奴隷になることを求めるも同然なのではないだろうか。

そしてそんな要求に応えられるのは、否、応えざるを得ないのは、それに応えなくては生活の糧を失ってしまう立場の人ではないのだろうか。自分の生活のためにしなくてはならない仕事だから、生活がかかっているから、嫌々ながらも真剣に尽くす。ヘマをすればとどのつまり自分が死んでしまうから、ヘマをしないように気を付ける。例えば顧客に優しく接するようになったり、次もまた頼ってもらえるように丁寧な対応を心がけたりする。そういうことなのではないだろうか。こと、クレーム処理的な性質も含まれる「ユーザーサポート」という仕事においては。

真剣さの種類と、Mozillaの行く末

技術系のギスギスしたコミュニティに属している人が「不真面目」であるとは思わない。自分の「益」やコミュニティの「益」を最大化するために真剣になっているのは事実だから。

ただ、その「真剣さ」はどちらかというと、労力の支出を切り詰めて消極的に「益」を増すことに重点を置いたものだと僕には思える。それに対して、営利企業に必要とされている「真剣さ」は、労力の支出を切り詰めることよりもユーザのシェアという収入を増やすことで積極的に「益」を増すことに重点を置くというものなのではないだろうか。

どちらも大切な事であるのは当然だけれども、「ユーザーサポート」は明らかに後者の「真剣さ」が重視される仕事だろう。

MicrosoftもOperaもAppleも、趣味・道楽でやってる人ばかりが集まってるコミュニティとは別に、それを仕事にしている人によるサポート窓口が既にきちんと存在している。でもMozillaにはそれがまだ無くて、趣味・道楽でやってる人が前面に出てこざるを得ない。それを公式のサポートの代わりにしてしまうことは、Mozilla/Firefoxというプロジェクトとプロダクトに取って、トータルで見て良いことなのか悪いことなのか……

Mozilla Japanの専属スタッフや、法人向けサポートを提供しているパートナー企業、関連書籍の出版に携わる人々。そういう立場の人がこれから先増えてくることがあれば、こんなところでぐじぐじと憂えるまでもなく自然と、Mozilla/Firefoxを取り巻く空気は「お客様」な初心者ユーザに対しても優しい物になっていくのかもしれない。

しかし初心者に優しい場所の舞台裏は、初心者に厳しい場所以上に、死屍累々の地獄なのかも知れない。あらゆる要求に無限に応えつづけることはできない。初心者に悪印象を持たれず、且つ、心をつなぎ留めておけるような、ちょうどよい「尽くし方」のレベル、つまり「損益分岐点」を見極めることもまた、必要なのだろう。

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