Jun 06, 2018

私達はここまで来た

昨年10月のFirefox 57リリース直前の時期に、アドオンのWebExtensionsへの移行を主導してきたAndy McKay氏がそれまでの歩みを述懐して書かれたブログ記事の勝手訳です。


私はMozillaに在籍してきたこの7年の間に色々な事をやってきました(訳註:Mozilla Add-onsに始まり、Firefox OS用のマーケットプレイスとその支払いの仕組みに関わった後、Mozilla Add-onsとWebExtensionsに戻ってきた、とのこと)。 ほんの2年前、私はアドオンコミュニティをWebExtensionsに移行させるという、Mozillaに参加して以来で私にとって最大のプロジェクトを任されました。 あと3週間ほどのうちに、Firefox QuantumはすべてのFirefoxユーザーの元に届けられ、WebExtensionsはFirefox 57においてアドオンを実行するための唯一の方法となります(訳註:その後、2017年11月14日にリリースされた)。

これは、物事を変えると決めて一緒に取り組んできたMozillaの人々の素晴らしいチームによる、2年間の努力の成果です。 私はその最初の数週間、何でこんな事になってしまったんだ?という、とんでもない恐怖の感情に駆られた事をはっきりと覚えています。 多くの人がこのプロジェクトにおいて私を助け支えてくれましたが、特に私が思うに、Kev Needham(訳註:Mozillaでプロジェクトマネージャを務めている人)が我々を導いてくれなかったら、私達は救いようのない状態に陥っていたでしょう。 私がその最初の数週間のパニックと恐怖に陥った時に、Kevと何度か対話した結果もう少しマシな状態に戻る事ができたというのは、その好例です。

最初の数週間は私達のエンジニアリングチームにはKumar McMillan、Stuart Colville、Matthew MacPherson、そしてKris Maglioneがおり、外を出歩いて更なるエンジニアを見つける事が、その月の私の主な目標でした。 その後すぐにChristopher Grebs、Mathieu Pillard、Mark Striemer、そしてLuca Grecoが加わってくれました。 私達が働き始めた最初の週には、2016年のベルリンにMatthew Wein、Andrew Swan、そしてBob Silverbergもいました。 後にShane CaraveoとAndrew Williamsonが参加してくれたのも、私達にとってはとても幸運な事でした。 様々な分野の知見と技術力を備えた彼らエンジニアの能力は誇張するまでもなく、彼らが成し遂げられた事は驚くべき事です。 私は彼らがなした事のすべてをこの記事に列挙したかったのですが、それをすると記事がとんでもなく長くなってしまうでしょう。 私達がやった事やWebExtensionsのアドオンを書く事に関する多数のブログ記事をぜひ読んで下さい。

私にとっては、個人としてこのプロジェクトを受け入れないという選択は取り難かったのですが、この決定に反対する人達も大勢いました。 彼らは様々な異なる方法で定期的にその事を私達に知らしめようとしました。 私がMozillaに在籍するようになってから、これほどまでに激しい反対に遭った事はありませんでした。 Mozillaの他の人達が取り組まなくてはならなかった色々な事に対し、私は本当に感謝しています。

それらの懸念の声の周りを進む事は非常に大変で、時には私は舵をうまく取れず、その体験自体も助けになりませんでした(訳註:苦労したわりに得られる物が無かったという事か?)。 学習曲線がそうであるように、最初からはうまくいかない物です。

その一方で、この決定に同意してくれた他の人達による手助けは素晴らしい物でした。 ちょうど先週トロントで、複数の人々が私達の方にやってきて、私達がやり遂げた変革に対して感謝を述べてくれました。 助けてくれた皆さん、本当に、本当にありがとうございます。

私は今も、これが私達がFirefoxに対してできる最善の事の一つだったと強く確信しており、成し遂げた事を私は誇りに思っています。 それは大きな変革であり、リスクと不確実性を伴う物でした。 控えめな表現をすると、これが今後どう進んでいくかについて、やや神経質になっている部分はあります。

でも、私達はもうここまで来ました。3週間後にはFirefox Quantumがリリースされ、そこにはもうレガシーなアドオンは存在し得ません。


以上、Andy McKay氏のブログ記事の訳でした。

WebExtensionsへの完全移行に伴うレガシーアドオンの廃止については、アドオン作者や一般ユーザーから強い反発がありましたが、Mozillaの外からだけでなくMozillaの中からもそういった反発があったというのが興味深いです。

氏はその後、今年の3月にGitHubに移籍されています。そのGitHubが今度はMicrosoftに買収されて、間接的にMS資本の元におられる状態になっているという事で、不思議な運命を感じますね。

1つ前に訳したroc氏のブログ記事では、「Geckoを捨てWebKitに移行するべきだ」という破壊的な提案が述べられていましたが、そちらは実現する事はありませんでした。それと、このレガシーアドオンの大量死と大混乱をもたらしたWebExtensionsへの移行という大転換との間には、「最後までやり遂げて実現させたか、させなかったか」というだけの違いしか無いのかも知れません。

ただ、XULの中にはXPCOMと密に結合した部分も多々あり、XULの一切合切をWebKitの上に移植するのは現実的ではなかったのでしょう。仮に本当に互換性を保つ形でやるとしたら、相当に分厚い互換レイヤがWebKitの上に乗っかる事になり、そのオーバーヘッドは無視できないレベルだったのではなないでしょうか。あるいは、オーバーヘッドをなくすためにGecko上のXPCOMやXULとの互換性を犠牲にしていたら、結局それに合わせるための作業がXULアプリやアドオン側にも発生するわけで、それだったら最初からWebKitに親和性が高い形で作った方がなんぼかマシという事になっていたでしょう。いずれにしろ、roc氏の予想にあったような「WebKitの高性能さとXULの資産のいいとこ取り」は絵に描いた餅に過ぎなかったのだと僕は思っています。

Andy氏には、2016年のAll Handsにお声がけを頂き、現地でお会いした際には、グループディスカッションの場では英語のやり取りが速すぎてついていけなかったので、その後一人になられた時を見計らって捕まえて、「アドオン同士の連携を取れる事が大事なんだ」という事をつたない英語で一生懸命伝えた(同じような事をLuca氏にも言った)のを覚えています。

自分はこの記事が書かれる1ヵ月弱前にツリー型タブのWebExtensions版をリリースしましたが、「もうグダグダXULにしがみついててもしょうがない、やるしか無い」と腹を括って重い腰を上げ、他のアドオンとの連携を意識したAPIも備えた物をリリースするに至った背景には、その時Andy氏やLuca氏等と直接話して感じた「ああ、この人達は本気で物事を良くしようとしてるんだな」という心意気……みたいな? そういうのを感じて、こちらも相応の物で応えねばなるまいと思ったから、というのも心のどこかにあったのだと思っています。

1つ前の翻訳記事にも書きましたが、WebExtensionsによってFirefoxとアドオンが明確に切り離された事は、FirefoxおよびGeckoの抜本的改革を進める上でプラスに働いているという事を最近とみに実感します。 実際、Firefox 59からFirefox 60にかけての間でも、タブバー周りの実装からXBLが取り除かれるなどのかなり大きな変化がありました。 今までであれば(WebExtensions版より前のツリー型タブなどの)アドオンの互換性が損なわれたという事で大騒ぎになっていた(僕がグダグダ噛み付いていた)かもしれません。 そういった一切がWebExtensions APIの向こう側に隠蔽された事によって、アドオン作者は安心してアドオンの開発に集中できるようになっているという現実を見るに、レガシーアドオンの廃止とWebExtensionsへの移行はやはり必要だったという事を改めて感じる次第です。

(2018年6月8日追記。大袈裟だ、WebExtensions移行を正当化したいだけのこじつけだ、と思う人もいるかもしれませんが、最近実際にあったFirefox 61での後退バグとその原因の例を見るに、XULアドオンの仕組みのデメリットは色々あったという事は否定できないと思っています。)

というか、最近久しぶりに仕事でレガシーアドオンを触る事があって、「もうこんなの作りたくない……WebExtensionsで書かせてくれ……」と思ってしまいました。最初あれだけ渋ってたのに、今じゃすっかり骨抜きですよ……

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