Jan 12, 2019
ツリー型タブでタブの並び順が壊れる問題との格闘
ただの苦労話です。
ツリー型タブをWebExtensionsに移行してからこっち、ずーーーーーっと悩まされてる事がある。それは、TSTのサイドバー上のタブとFirefox本体のタブの並び順が一致しなくなる事があるという問題。
何故そういう事が起こるのかというと、色々な背景があるのですが……
- 当初はタブの並び順の制御については、WebExtensionsのAPI経由でタブを移動した後、それが
tabs.onMoved
で通知されるのを待って、通知された情報に基づいてツリーを更新するということを考えていた。 - しかし実際にそうしてみると、まあ遅いこと遅いこと。Firefoxとアドオンのプロセスが別だからなのかそれとも別の理由があるのか、イベントがTSTに通知されてくる(結果が返ってくる)までにかなりのタイムラグがある事が分かった。
- そこで、WebExtensionsのAPI経由でFirefoxのタブを並べ替えるのと同時に、別途
runtime.sendMessage()
でタブの移動を行う指示をバックグラウンドページとサイドバーの間でやり取りして、イベントの通知を待たずに先にツリーだけ更新するようにした。
で、タブを一つ一つゆっくり操作している場面(僕の普段の使い方)ではこれで問題無かったんですが、このやり方には、リンクからタブをまとめて開くとかブックマークレットを使うとかしてTSTのあずかり知らぬ所で複数のタブが一気に開かれた場合に、TSTのツリーとFirefoxのタブの順番の同期が崩れやすくなってしまうという、大きな大きな副作用がありました。
tabs.onCreated
やtabs.onMoved
などのイベントがそれぞれ非同期で送られてくる。- そのリスナの中で非同期に、タブを親タブにattachしたり、タブを並べ替えたりしている。
- そうこうしている間に新しいタブが開かれたり移動されたりする事もある。
- それどころか、処理中だったタブが閉じられてしまう事もある。(開かれたタブを自動的に別のコンテナで開き直す、みたいなアドオンがあると起こる)
こういった感じでもうシッチャカメッチャカで、こんな状況の中でタブの並び順やら存在確認やらを厳密に把握して破綻の無いように管理するなんて、どだい無理なわけです……全部のイベントをキューに積んでシーケンシャルに処理していけば安定はするだろうけど、そうしたら死ぬほど遅くなるだろうし。いまですら遅い遅いと言われているのに、これ以上遅くなったらどうなることか、考えるだけでもそら恐ろしい。
それでも何もしないわけにはいかないので、とりあえず、挿入中のタブがある時は最低限IDが確定するまでは次のタブを挿入する処理を止めるとかの、焼け石に水のような細かい対策をちまちま重ねていました。が、最近になって「ちまちまやっててももうどうしようもない」という境地にようやく至りまして、とりあえずタブの並び順の制御についてだけは、
- まず
runtime.sendMessage()
でTSTのツリーだけ並べ替える。これはリアルタイムに行う。 tabs.move()
の呼び出しは、ある程度キューを溜めておいて後でまとめて行う。その時は、TSTのツリー上のタブの並び順をマスターとして、それに合わせるようにFirefoxのタブを並べ替えるという事を徹底する。
という事をやるようにしました。
ただ、この方向で愚直にやると、全部のタブの並び順をチェックするような処理が頻繁に実行される事になって、タブが何千とか開かれてる環境ではますます遅くなってしまうと容易に予想できるわけで。もうやだ……どうやっても詰みじゃん……安定性を突き詰めればクッソ遅くなっていって、体感速度の向上を意識すれば安定性が犠牲になって……
こんなことならもっと早くに現行の設計を諦めてReactDOMとかの仮想DOMベースに作り直しとけば良かった。あれなら確か、JSON形式のマスターデータを雑に編集してそれをビューに随時渡すだけで、ビュー側は現時点のDOMツリーから期待されるDOMツリーの状態への最短の編集距離を求めて、最小限の変更で高速にDOMツリーを更新してくれるっていうじゃないですか……という所まで考えて、はたと気が付きました。そうだ、タブの並べ替えも最小限の変更だけで済むようにすればいいんじゃん、と。
実はこれにはアテがありました。遙か昔にアドオンの自動テストをやりたくてUnitTest.XUL略してUxUというアドオンを会社で作っていたのですが、テストケース中のアサーションの期待値と実測値の差分をdiff形式で出力するために、当時すとうさんがPythonのdiffの実装をJavaScriptに移植した物を入れて下さっていて、これが使えそうだったのです。
これは元々はUnified Diffのテキスト形式を出力するだけの実装だったのですが、僕がTortoiseSVNやTortoiseGitで見慣れていたカラフルな差分表示をUxUでもやりたくなって、HTMLのタグを含めた出力を組み立てるような処理を自分で書いた事があり、その時に、diffの実装は内部的には行単位ではなく1文字単位で違いを検出できているという事を知ったのでした。ということは、それを応用すれば「元のDOMツリーからこの要素だけ移動すれば期待したDOMツリーになる」「元の並び順のタブからこのタブだけ移動すれば期待したタブの並び順になる」というような必要最小限の編集手順を特定するのにも使えるはずです。
ということで、実装をそのままTSTに持ってきて、いまどきのES2017っぽいスタイルに直した上で、tabs.move()
でのFirefoxのタブの並べ替えとDOMツリーの編集をそれぞれなるべく少ない手順でやるようにしてみました。
コードを見ると分かりますが、実際に使っているのはdiffの実装の中のSequenceMatcher
というコア機能だけです。本来は文字列を1文字単位で比較するための物ですが、実装的にはArrayを渡せばArrayの要素単位で比較してくれそうな雰囲気だったので、文字列の代わりにタブのIDを入れた配列を渡してみた所、いい感じにequal
(変更無し)、delete
(削除)、insert
(追加)、replace
(置き換え)という形で最小の編集手順を導き出してくれました。タブの並べ替えでは「タブがなくなる」という事は前提としてあり得ないため、insert
とreplace
のうち挿入箇所にあたる部分だけを編集情報として使っています。これのお陰で、いままでは無駄に何度もタブを行ったり来たりさせていたのが、場合によってははるかに高速に並べ替えが完了するようになってくれました。
レガシーなやり方を捨ててモダンな仮想DOMへの移行のきっかけになるはずが、何だかんだで結局、部分的にとはいえ似たような事を自前でやるようにしてしまったということで、なんだかなあ……と頭を抱えているのが「今ココ」ということで、特にオチはありません。
(まあ、仮に仮想DOMに全面的に設計を刷新したとしても、tabs.move()
でFirefoxのタブの並び順を制御する部分はきっとそのまま使い続ける事ができそうではあるので、今回やった事も完全に無駄というわけではないかな、と……)
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