Sep 12, 2023

「まんがでわかるLinux シス管系女子」から「ITエンジニア1年生のための まんがでわかるLinux」への改題の意図

「まんがでわかるLinux シス管系女子」1巻と2巻前半にあたる部分を収録した増補改訂新装版の「ITエンジニア1年生のための まんがでわかるLinux」について、後書きでは少し触れてたんだけど、恐らく旧版読者だと思われる方の 「時勢に合わせた感じなのかなあ」というコメントを見かけたので、改めて書き記しておきます。

端的に言うと、これは作者の自分から改題を申し出ました。

 

連載開始にあたり、「肉食系女子」「草食系男子」というフレーズにヒントを得て、僕は本作に「シス管系女子」というタイトルを付けました。
これらの「肉食系」「草食系」は、少なくとも当初は、揶揄や面白がりのニュアンスは込められていても、「肉食系女子ってエロいから狙い目だよね」とか「草食系男子って萌えるよね」とかみたいな、「そういう人を消費する切り口の属性」ではなく、賛否はともかくとして、個人の主体的な生き方やスタイルを表すフレーズとして使われていたように記憶してます。
なので、〆切ギリギリのタイミングで思いついたタイトルにしては、主人公の女性キャラやメンターの女性キャラのことを端的に言い表す、そこそこパンチのあるいいタイトルなんじゃないか? と、その時の僕は素直に思っていました。

「お堅いIT企業で地味な服装を求められ、趣味に全く合わない服を仕事用に買って渋々着ていたが、服装自由なWeb系の職場に転職して以後、それらは全く着なくなった」的なエピソードを人から聞き、物凄く不毛だと感じたこと。
当時放送されていた「東京カワイイTV」で、他人にウケるためでなく自分が楽しむための「カワイイ」があると知った事。
それらから着想を得て、他人に媚びるためでないカワイイをまとう主人公を描くことによって、「着飾ったらチャラチャラ媚びてると白眼視される」みたいな抑圧を減らす一助になれればと思い、僕は利奈みんとという主人公を設定しました。
タイトルに敢えて「女子」を冠したのには、抑圧へのそのようなカウンターを無意識のうちに意識した部分もあったのかもしれません。

 

しかし、女性性を前面に出しプロフェッショナル性をないがしろにした「~女子」呼び(STAP細胞騒動で有名な小保方氏を「リケジョ」と持て囃すなど)が横行する様子を何度か目にするうちに、だんだんと自分には、「女子」を敢えて称する事自体が、そのような風潮に与するものであるように感じられるようになってきました。
「プロフェッショナル性でない女性性の部分にばかり焦点を当てるのは、プロ意識を持つ当事者に失礼だ」という考えを、僕自身が理解できるようになってきた、ということなのだと思っています。

「主体的に生きるプロではない職場の添え物・マスコット的存在を描いているだけだから、性別にフォーカスしたタイトルなのだ」
「実在の女性ITエンジニアの女性性にだけ着目することを良しとする価値観を肯定しているのだ」
未読の方や読者に、そんな風に思われうる。
作者の僕の自意識としてはそうは思っていなかったけど、もしかしたら実際に、そういう女性への差別的な発想が無意識にはあったのかもしれない。
抑圧へのカウンターになって欲しいと思い設定した主人公像、その主人公像を言い表すのによいと思って付けたタイトルが、抑圧を強めるものと解される。
解されるだけでなく、実際にそのように作用していたかもしれない。
それは僕の本意ではなかったのだけれど、世間にそう受け取られてしまうなら、あるいは実際によくない作用をもたらしていたのなら、自分の力が及ばなかった・自分には出過ぎた真似だった・自分が間違っていたという事なのだろう、と僕は考えるようになりました。
(実際、この話の反応の中に、「旧題に嫌悪感があり中身を読む気にもならなかった」という感じの声があったのも観測しました。)

プロフェッショナルとして働く女性ITエンジニアを主人公に据えた創作物が増えてきた今のこの時代に、敢えてタイトルに「女子」を冠する事はむしろ古いセンスなのだろう、とも思うようになりました。
キャッチーさを感じて僕は「女子」をタイトルに冠したけれど、キャッチーになるなら、キーワードは「女子」でなくても何も問題はなかったわけで。
そこで苦し紛れに「女子」に着目してしまったことが偏見だと言われれば、その通りなのだと思います。

また、どれだけ綺麗事を言った所で、女性の当事者でない自分が、男性である自分の好みに「も」合致する造形としていることで、利奈みんとというキャラを自分もまた消費対象として見ている事実からは逃れられません。
彼女に一貫して黒タイツをはかせているのも、短いスカートやそう見えるワンピースばかり着せているのも、「女性らしい体のライン」を強調したポージングで描きがちなのも、「そういうのを自ら好む女性もいる」とはいっても、本作について言えば端的には「男性の僕の好み」の反映なわけで。
その欺瞞性に目を瞑り続けられない気持ちもありました。

 

あとはまあもちろん、無難なタイトルの方がふつうに恥ずかしい思いをせず手に取ってもらいやすくなるかな、という打算もありました。
「シス管系女子」というタイトルや表紙は人前で読むのが恥ずかしい、という声は本が出た後にも度々見かけていましたので。
とはいえ、「コードが動かないので帰れません!」のような、恥ずかしくないながらにパンチの効いたキャッチーなタイトルを思いつけなかったのは、我ながら力及ばず無念な所ではあります。

連載をまとめた本を「まんがでわかるLinux シス管系女子」というタイトルで出すにあたり、装丁はほぼ僕が考えましたが、「いかにもIT、という感じではないポップな感じにしたい」と思って暴走しすぎたきらいはありました。
旧版の装丁を考えた時の僕が、「手に取りやすいポップさ」と「IT書籍らしくないポップさ」を履き違えていたのは否めません。
あと単純に、デザインのプロではない自分が考えた装丁が「カワイイ」とは言えない、「ダサイ」だった、という事なのかもとも思っています。
(新装版「ITエンジニア1年生のための まんがでわかるLinux」では、ちゃんとしたデザイナーさんに装丁を手がけて頂けて、こちらはすごく良い物に仕上がったんじゃないかと思ってます。)

 

そういうわけで、新装版として出すタイミングで、目立つ位置に来るタイトルからは「女子」を外すことにした次第です。

「時勢に合わせた感じなのかなあ」という疑問の声に、シンプルに「そのとおりです」と答えても間違いではないのですが、単に言葉少なにそう言ってしまうというのは、「自分は何も問題ないと思ってたのに、煩く言われるから嫌々変えた。今でも不満を抱えてる」ことの表明のようなニュアンスを僕は感じます。
そういうことではなく自発的な判断だったんですよという事を言い表したくて、こうして長々書いている次第です。

 

なお、本のタイトルは変えましたが、連載のタイトルは今の所従来通りの「#!シス管系女子」で継続しています。
「ITエンジニア1年生のための~」は、信頼性が求められる書籍のタイトルとしてはカッチリしてていいと思うけど、連載タイトルには、ちょっと堅すぎてしっくりこない気がして。

連載のシーズンの切り替わりで変えられるタイミングは何度かあったんですが、毎回アワアワしていて連載の新タイトルを考える余力がないうちにシーズンが切り替わってしまう、という事が続いてしまっているのが情けない所です。
次のシーズン切り替わりのタイミングまでの間には何かいい案を考えておいて、今度こそは連載も改題したい気持ちが結構あります。
本とのつながりを示す事を考えると、「まんがでわかるLinux」はサブタイトルにでも入れておいた方がいいでしょうか。
何か良い提案があればお待ちしております。

 

以上、Xに書いたやつの加筆修正版でお届けしました。

エントリを編集します。

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